ある平日、お昼ごはんを食べに、
「なか卯」に行った。
周りの席は9割がたが埋まり、店員さん達は忙しく仕事をしていた。
私は券売機で和風牛丼とサラダセットの食券を買って、
長いU字型のカウンター席について店員さんに渡した。
料理を待っていると、
50台後半くらいのおじさんが店に入ってきた。
その人は店員さんの歩くスペースをはさんで
私の反対側のカウンターに座った。
そのおじさんは店員さんに食券を渡しつつ、
「親子丼、汁無しで」と注文した。
「親子丼、汁無しで」。
え?そんな注文できるの?と思った。
親子丼の作り方をざっくり書くと、
1.ダシを暖める
2.ねぎと鶏肉をダシに投入
3.火が通ったら溶き卵を流し込んでフタをする
4.固まってきたらごはんに乗せて完成
という流れ。
この「1.ダシを暖める」の時点でダシを1mlも入れないとすると、
小鍋に鶏肉とねぎを直接投入することになる。
油で炒めて卵をからめる?それはもはや親子丼ではないし、素材以外の味付けがない。
危機感と緊張感が、接客する店員さんの背中に見え隠れ。
「親子丼は汁で煮て作るので!汁がないとジュー!っとなって鍋に焼き付いてしまうし味も無いので汁無しはできないんですよー!」
動揺を隠しもせず必死で説明する店員さん。
イレギュラー、エマージェンシーである。
頭に赤ランプが付いてたら激しく回転しながらサイレンが鳴り響くレベル。
おそらくマジメな人だったのだろう。
期待に応えたい気持ちと物理的限界の矛盾に苦しむ店員さん。
不器用な人工知能を見るかのようだった。
お昼時で忙しかったこともあるのだろう、
答えはなかなか出ない。
その後、一度キッチンに戻り相談をしてから再びカウンターに戻る店員さん。
最終的には「親子丼の汁少なめ」という妥協案に着地した。
やけに長い調理時間をかけて着丼。
食べ始める汁無しおじさん。
ごはんが汁でまとまらずポロポロしている様子を見ながら、
和風牛丼の終盤にさしかかる私。
箸の使い方が今ひとつうまくないこともあり、
苦戦しながら食べ進む汁無しおじさん。
牛丼だとつゆだくとかつゆなしとかできるから、
そのイメージだったんだろうね。
大量に煮てあって穴あきのおたまで具をすくう牛丼と、
個別にねぎと鶏肉を煮て卵でとじる工程のある親子丼の差だった。
という、誰も得をすることがないし、なんの教訓にもならない不毛なお話でした。
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